ChunPom’s diary

数学、物理、機械学習に関する話題。あと院試、資格、大学入試まで。

2020東大入試数学(理系)問題と講評

2020年の東大数学講評について。

 

問題の難易度としては、

第一問:易、第二問:易、第三問:易、第四問:標準、第五問:標準、第六問:やや難。

 前年よりやや易化〜並程度と考える。

 

第一問は、見るからに背理法の問題。見通しも立ちやすく、完答したい。

第二問は、私立中堅の中学入試よりも簡単。間違いなく落とせない問題。

第三問も基本の問題。積分もしんどくないので,落とせない。

第四問は、(2)で一瞬戸惑うかもしれないが、代表値を計算してみることで解の予測はすぐに立つ。(3)は(2)のおまけに過ぎない。

第五問は、「立体は輪切りで求める」という東大数学の合言葉を体現した問題。ただ、(1)はサービスだし、(2)も輪切り図面を丁寧に作れば決して難しくはない。注意点は変数が複数(輪切りのz座標と、Pのz座標など)出現しうることか。いずれにせよ、輪切りの問題はそろそろネタ切れ感が否めない。

第六問は、別段方針が立ちにくいわけではないが、以下の2点に注意しなければならない。すなわち、楕円の接線の方程式と、反例探しである。(2)において {\displaystyle r \geq1/2} であることは、楕円の接線の方程式がちゃんと頭に入っていればスムーズに行くだろう。ただし、最後に高々{\displaystyle r =1/2}になることを示すのは意外に難しい。すなわち、因数定理や今回の第四問のように、代表的な値を突っ込んでも反例がすぐに見つからないためである。このような場合は、逆算して「どういう代表値なら反例を示せるか?」と考えてほしい。具体的には、「{\displaystyle sin(2 \theta)=sin( \theta-\alpha)}の解が3つになってしまうのは、本来4つあるはずの解のうち2つが一致してしまうときだ!」と思考実験するとよい。さすれば、{\displaystyle \alpha=3\pi/4}という代表値が手に入る。

 

全体としては、丁寧な誘導が付いているため部分点が取りやすいセットになっている。そのうえ、答えが簡単に予測できるものが多く非常に取り組みやすい。東大らしさが乏しい簡単な入試という印象が強いが、初見で驚く第四問(2)や、論証が必要な第六問(2)後半などはやりがいのある問題だったのではなかろうか。

関数解析の入門書おすすめ

 

関数解析の入門的な勉強に適した参考書の紹介です。

まずは集合と位相から

 ・はじめよう位相空間 (大田 春外)

集合・位相の基本を,高校数学の延長を意識して書いた本。位相空間の本番に行く前にどうぞ。

はじめての集合と位相

はじめての集合と位相

 

 

 ・集合と位相 (斎藤 毅)

集合・位相の入門書としては,かなり高等な内容も含んでいる。

集合と位相 (大学数学の入門)

集合と位相 (大学数学の入門)

 

 

関数解析

 ・工学系の関数解析 (小川 英光)

 

ルベーグ積分の知識をなるべく使わないで,関数解析についてまとめた本。関数解析の応用面を手っ取り早く知りたいなら格好の書である。また,再生核ヒルベルト空間に関する記述も多く,機械学習の観点からも勉強になるだろう。 

工学系の関数解析 POD版

工学系の関数解析 POD版

 

 

以下の本は基本的に測度論・ルベーグ積分を既知としている傾向があるため,その勉強には下記の記事を参照されたい。ただし位相的側面についてはどれも手薄感が否めないので,適宜上で紹介した2冊も参照されたい。

su-butsu-kikaigakusyuu.hatenablog.com

 

 ・ルベーグ積分関数解析 (谷島 健二)

ルベーグ積分の観点から関数解析についてまとめた本。ルベーグ積分の前提知識がある程度ないとキツイ。 

新版 ルベーグ積分と関数解析 (講座〈数学の考え方〉13)

新版 ルベーグ積分と関数解析 (講座〈数学の考え方〉13)

 

 

・応用のための関数解析 (吉田 善章)

微分方程式非線形問題への応用が詳しい。ルベーグ積分の基本は既知としている。

新版 応用のための関数解析―その考え方と技法 (SGC BOOKS)

新版 応用のための関数解析―その考え方と技法 (SGC BOOKS)

 

 

 ・積分函数解析 (丸山 徹)

測度論から丁寧に関数解析の基本まで追っている本。逆に言うと,フーリエ変換や確率解析などといった応用的な側面は記載されていない。「ルベーグ積分関数解析」から応用面を排除し,基本を丁寧&詳しめにした感じ。

積分と函数解析―実函数から多価函数へ

積分と函数解析―実函数から多価函数へ

 

 

 

ルベーグ積分の入門書おすすめ

ルベーグ積分の入門的な勉強に適した参考書の紹介です。

統計学や経済学科向け

 ・統計学への確率論、その先へ (清水泰隆)

数理統計をルベーグ積分の観点から説明した珍しい本であり、ルベーグ積分が必要とされる目的を知る格好の参考書。

普通の数理統計では「母関数に対する確率分布の一意性」や、「微分と期待値操作の可換性」などが当たり前のように使われているが、本来これらには満たしておくべき十分条件がある。この本では必要最小限度の定理を用いてそういった背景を説明する。統計への応用面を主題にしているため、定理の事細かな証明はないので注意。証明に関しては、最後に紹介するルベーグ積分入門 (伊藤清三)を読もう。

統計学への確率論、その先へ―ゼロからの測度論的理解と漸近理論への架け橋

統計学への確率論、その先へ―ゼロからの測度論的理解と漸近理論への架け橋

 

物理学やその他工学科向け

 ・ルベーグ積分30講 (志賀浩二)

面積の概念からわかりやすく測度や積分の概念を説明し、ルベーグ積分の基本定理を開設する。測度のイメージを培う格好の書。また、関数解析を念頭に置いた記述も多く、工学系にとっての入門書たりえる。

ただ、急ぎ足で若干証明が淡白になっている箇所があるため、詳しい照明は次に紹介するルベーグ積分入門 (伊藤清三)を読もう。

ルベーグ積分30講 (数学30講シリーズ)

ルベーグ積分30講 (数学30講シリーズ)

 

全方位向け

ルベーグ積分入門 (伊藤清三)

ルベーグ積分の基本定理は網羅されており、証明も詳しくかつ分かりやすい。また、演習問題に解答がちゃんとついている。一見敷居が高そうだが初学者に是非読でほしい必読の書。

余談だが、この本で学んだ事項の演習もかねて、大学院入試問題と解答,ルベーグ積分,服部哲弥のサイトで問題を解きまくるのもgood。ぜひ試してみては。

ルベーグ積分入門(新装版) (数学選書)

ルベーグ積分入門(新装版) (数学選書)

 

 

 

双対標本共分散について

データのばらつきを簡単に評価するには,標本共分散行列 { \displaystyle S}を計算するとよいことはみなさんご存じだろう。すなわち、 { \displaystyle d \times n}のデータ行列 { \displaystyle X=(\bf{x}_\rm{1},\bf{x}_\rm{2},...,\bf{x}_\rm{n})}に対して、  

    { \displaystyle S=\frac{1}{n-1}(X-\overline{X})(X-\overline{X})^T}・・・(1)

で定義される。上線は標本平均を表す。この行列は { \displaystyle d \times d}であり、データの次元の大きさを持つ行列となる。例えば主成分分析では、 { \displaystyle S}の大きい固有値に対する固有ベクトル(=ばらつきの大きい軸)のみを抽出し、もとのデータ空間を低次元空間に射影する。

 さて、そもそも従来の統計は、「データの次元は低いが、サンプル数は大量にある」というケースを扱うものであった。この条件の下で信頼区間を計算し、尤もらしい推定を行う。一方で最近では、「データの次元は大きいが、サンプル数は小規模」な高次元小標本の問題を対象にすることが多く、従来の統計学の考えでは対応できない場合が生じつつある。

 例えば、最初に説明した共分散行列を考えてみよう。 { \displaystyle S} { \displaystyle d \times d}であり、高次元になればなるほど対角化が困難になる。すなわち、サンプル数より次元が大きい場合は、共分散の計算は { \displaystyle d}律速されてしまうのである。

 したがって、高次元小標本では { \displaystyle S}の行列の積の順番を交換してできる双対標本共分散行列 { \displaystyle S'}を考えるとよい。すなわち、 

    { \displaystyle S'=\frac{1}{n-1}(X-\overline{X})^T(X-\overline{X})}・・・(2)

とすれば、共分散行列は { \displaystyle n\times n}であり、次元によらない大きさの行列となって計算は容易となる。ただし、本当に見たいのは標本共分散行列 { \displaystyle S}の持つ固有値である。 { \displaystyle S'} { \displaystyle S}に関する情報をどこまで抽出できるのであろうか?

 先に結果から言うと、実は { \displaystyle S}固有値のうち、大きい順の { \displaystyle \lambda_1,\lambda_2,...,\lambda_n}は、 { \displaystyle S'}固有値に一致する。これは、「 { \displaystyle AB} { \displaystyle BA}の固有多項式の満たすある関係」による。

詳しくはhttp://yoshiiz.blog129.fc2.com/blog-entry-801.html参照。

 いずれにせよ、式(2)の行列を用いれば、高次元な共分散行列の固有値を求めることができることが分かった。このように高次元小標本の問題では、データの次元数による次元の呪いを回避し、より少数なサンプル数で律速された解析法を構築することが一丁目一番地となる。

 

 

 

 

2019東大入試数学(理系)問題と講評

2019年の東大数学の問題を掲載する。

drive.google.com

 

問題の難易度としては、

第一問:易、第二問:易、第三問:やや易、第四問:標準、第五問:やや難、第六問:やや難。

 

第一問は、展開して積分するだけ。ただし、工夫できそうな「思わせぶりな」式の形をしているので、解き方に苦慮しやすく、嵌まる危険があるので注意。東大で定積分自体が出題されたのはかなりレアである。

第二問は、変数の定義域に注意すれば、全く難しくない。落とせない問題。

第三問は、冷静に(1)の平面図が利用できれば難しくはない。(3)がやや手抜きな設問という印象で、面白みがないただの計算。試験中に冷静さを欠くと嵌る危険が高い。

第四問は、適度な論理力が試される良問だが、標準的な問題。(1)はサービスで、(2)はおきまりの背理法 \displaystyle n^2+1が平方数にならないことから、簡単に証明できる。落とせない問題。

第五問は、問題自体に必要な論理力は高くないものの、技巧的な変形が必要な箇所があることや、収束点の図形的解釈が困難であるため、やや難しい。最後の設問は、明らかに「微分係数の定義使ってください」という形になっている。差が出そうな問題。

第六問は、実数係数の多項式における複素数解は必ず共役なペアを伴うことを利用し、条件をシンプルに見極めることが重要。

 

全体としては、丁寧な誘導が付いているため部分点が取りやすいセットになっている。必要な論理力はさほど高くないが、意外に解きにくい問題が多い。これの原因は小手先の技術やハッタリによるもので、個人的にはあまり深みのない試験だったという印象。

アクチュアリー数学に合格しました

2018年度のアクチュアリー試験基礎科目の一つ、数学合格しました!問題分析だけでなく、限られた時間の中でこの試験に合格するための方法を自分なりにまとめようと思います。

 

① 問題分析

問題1

・例年通り基本的な小問集合。

基本的に例年通りのラインナップ。強いて言うなら、(1)の「必要十分条件」に関する出題は真新しいか。ただ、高校数学がしっかりできていれば難しくない。純粋な知識特化問題は「イェーツの補正」くらいで、最低限の知識があればほとんどの問題ができるようになっている。すなわち、得点源。難易度は、統計検定準一級の計算問題と同じくらい。

問題2

・例年通り確率漸化式の問題。

基本的には漸化式を立てて解いていくだけの問題だが、序盤の方で計算ミスして死んでしまった。また、途中に出てくる近似値を見落としてしまい、馬鹿正直に計算するなどして時間を食ってしまった。いずれにせよ、過去問と似たような問題で、難しくはないはず。

問題3

・例年通り確率分布関数に関する統計数理の問題。

順序統計量と、確率分布に対する逆変換に関する問題で、本試験の得点源。誘導に沿っていけば難しくないし、知識がなくても完答できる。統計検定一級と同じか、やや簡単。

 

② 対策

 

問題1

・序盤はセンター試験、残りは統計の問題集で関連するところのみをやる。

問題1を得点源にするには、確率解析の基礎が仕上がっている必要がある。特に、確率論の基礎(第一問に相当)は、センター試験数1Aの集合や必要十分条件に関する問題で基礎固めできる。残りの問題は各分野が満遍なく出題されるが、でる箇所はだいたい決まっている。すなわち、確率密度関数、信頼区間、検出力、回帰分析、ブラウン運動、時系列解析、乱数生成は必ず出るので、重点的に問題演習すれば良い。統計の問題集の該当する部分や、過去問をひたすらやる。ある程度やれば8割は切ることはないが、早く解く練習をしておこう。オススメの参考書を載せておく。

 ☆センター試験数学

センター試験過去問研究 数学?・A/?・B (2019年版センター赤本シリーズ)

センター試験過去問研究 数学?・A/?・B (2019年版センター赤本シリーズ)

 

 ☆統計検定準一級

日本統計学会公式認定 統計検定 1級・準1級 公式問題集[2016〜2017年]

日本統計学会公式認定 統計検定 1級・準1級 公式問題集[2016〜2017年]

 

問題2

・過去問メイン。

残念ながら、問題2に似た傾向の問題は、市販の参考書にはあまり載っていない。そのため、基本は過去問をとくことになるだろう(アクチュアリー会発行の教科書に載ってるかもしれないので、現在調査中)。強いて言うなら、統計検定1級統計応用の理工学分野の問題に近いが、あくまでも参考程度。

問題3

・統計検定1級で対策可能。

ほぼ統計検定1級(特に統計数理分野)の問題と同じ内容。ただし、統計検定の方がやや高度か。なので統計検定1級がほぼできるようになれば、問題3は完答できる。

 

③ 統計検定準一級、一級との対応

あくまで個人的な意見では、

合格難易度は 「アクチュアリー数学≒統計検定一級<統計検定準一級

計算力は 「統計検定準一級<統計検定一級<<アクチュアリー数学

論理力は 「統計検定準一級<<アクチュアリー数学<統計検定一級

知識力は 「アクチュアリー数学≒統計検定一級<<統計検定準一級

と言う感じ。発想力はどの資格もあまり必要としない。なので、やれば必ず成績は伸びるはず。効率的に受かりたいなら、まず統計検定1級(11月)に向けて勉強を進め、アクチュアリー問題1と3の基礎固めをする。一級に合格した後の数週間でアクチュアリーの過去問を解きまくり、12月の試験本番に向かう、と言うのがベスト。統計検定準一級(6月)を前もって受けておくと尚のこと良い。

一応このモデルケースを実行してみた私だが、統計検定準1級は約80h、1級(統計数理&統計応用)は約100h、アクチュアリー数学は約20hの勉強でそれぞれ合格することができた。勉強時間が少なくともアクチュアリー数学に合格したのは、統計検定の恩恵と言うことができよう。

 

 

統計検定自作問題2(数理統計向け)

「平均 { \displaystyle \lambda}のポワソン分布に従う確率変数 { \displaystyle X}と、自由度 { \displaystyle n} { \displaystyle \chi_{n}^2}分布に従う確率変数 { \displaystyle Y_n}を考える。すなわち、それぞれの確率分布を { \displaystyle P(X=x)=\frac{\lambda^x}{x!}e^{-\lambda}\ (x=0,1,2,...)} { \displaystyle f(y_n)=\frac{x^{n/2-1}e^{-x/2}}{2^{n/2}\Gamma(n/2)}\  (y_n \geq 0)}とする。以下の問いに答えよ。

(1)  { \displaystyle k}を0以上の整数として、  { \displaystyle P(X\geq k)=P(Y_{2k}\leq 2\lambda)}が成り立つことを証明せよ。

(2)  { \displaystyle k}を0以上の整数として、 { \displaystyle P(X\leq k)=P(Y_{2(k+1)}\gt 2\lambda)}が成り立つことを証明せよ。

(3) 確率変数 { \displaystyle X}に対する { \displaystyle N}個の独立な標本 { \displaystyle X_1,X_2,...,X_N}がある。このとき、パラメータ { \displaystyle \lambda}有意水準 { \displaystyle \alpha}の信頼区間を求めよ。」