大学入試数学良問2-エントロピーの上限値-
「 を正の数とし, を満たすとする。このとき、
不等式 を求めよ。」
(東工大前期1990)
この問題は、後述するように”エントロピー”に対する不等式に関する問題である。
以下、考え方兼略解。
考え方のポイントは、
①凸関数の構造に気付けるか
②帰納法を選択できるか
の2つ。
では、略解を記載する。
まずは、 で割った の両辺を詳しく見る。式の構造として、左辺にも右辺にも”"が現れていることがわかる。そして左辺はそれに各値を代入したものの平均値、右辺は各値の総和を一括して代入したものになっている。このような性質は、何も”"に限った話ではなく、下に凸な関数では常に成り立つ性質である。
よってこの性質を帰納法で証明しよう。
すなわち下に凸な関数に対し、
(等号成立は の時)を示す。
の時は明らか。
の時に
(等号成立は の時)が成り立つと仮定する。
を考えると、
\begin{eqnarray*} f\left(\frac{x_1+x_2+\cdots+x_k}{k+1}\right)&=& f\left(\frac{k}{k+1}\frac{x_1+x_2+\cdots+x_k}{k}+\frac{x_{k+1}}{k+1}\right)\\
&\leq&\frac{k}{k+1}f\left(\frac{x_1+x_2+\cdots+x_k}{k}\right)+\frac{1}{k+1}f\left(x_{k+1}\right)\\
&\leq&\frac{k}{k+1}\frac{f(x_1)+f(x_2)+\cdots+f(x_k)}{k}+\frac{1}{k+1}f\left(x_{k+1}\right)\\
&=&\frac{1}{k+1}\{f(x_1)+f(x_2)\cdots+f(x_k)\}\end{eqnarray*}
が成り立つ。
ここで、二行目では、下に凸な関数の性質である
(等号成立は)を用いた。
また、三行目では での仮定を用いた。
二行目の等号成立は の時、三行目の等号成立にはさらに が課されるため、 の時の等号成立は となる。
以上より、帰納法的に (等号成立は の時)が示された。
実際、 は二回微分して正になるため、下に凸の関数であり、上式を満たすことから、題意の式は示される。
ちなみに、本問題はエントロピーの上限を与える式と言える。
(シャノン)エントロピーとは系の乱雑さを示す量で、ある確率変数 が事象 となる確率を とすれば、
と定義される。
従って、本問題の結果により、確率の和が1であることを用いて整理すると、
を得る。
また、最大となる場合は の時であり、全事象が等確率に出現し、乱雑さが最も大きくなっていることがわかる。
このような分布を、離散一様分布という。
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