イジング模型+ベイズ推定による画像処理
イジング模型は磁性体のスピンの状態(↑、↓)を記述することができる模型である。
特に、隣り合うスピンの相互作用が負になる強磁性体のイジング模型の場合は、スピンが揃い合いたがる性質がある。
この性質を利用したベイズ推定による画像処理法がある。
ベイズ推定は簡単に言うと、
あらかじめ仮定していた、推定したいパラメータの分布(事前分布)を、
実際の測定結果に基づいて更新し、
より客観的な分布(事後確率)を得ること
である。さらに事後分布を事前分布とみなして上記の操作を繰り返すことで、真のパラメータに対する分布を推定できる。
このためベイズ推定の勘所は、如何に最もらしい事前分布を仮定するか、というところにある。
画像処理ではノイズを除去することを目的とするが、元々の画像の仮定として、「近くの画素情報は似ている」という仮定がある。つまり、画素の情報(白黒など)を2値のスピンで置き換えた際には、スピンはバラバラの向き(常磁性)ではなく、揃った島(強磁性体の磁区)を持つと期待される。
そこで、先ほど紹介したイジング模型を事前分布に採用することを考えよう。
2値画像を として、事前分布を
とする。ここで は規格化係数である。
これに、スピンの符号を変えるノイズが加わった画像 を考える。ノイズが加わる確率を
と置くと、元の2値画像 と上記のノイズの仮定のもとで が起こる確率は、
よって、ベイズの公式 を用いれば、事後分布
を得る。ここで は修正された規格化係数である。
すなわち、 を設定することにより、観測された画像 から元の画像 を推定できる。
また、上式の指数関数の肩は、非一様な磁場 の下での強磁性イジング模型のハミルトニアンになっている。つまり、観測データによる補正(=局所的磁場)を入れることで、一様な黒い画像(=強磁性状態)に白い島(=反転した磁区)を導入することができる。
と のバランスをうまく調整すれば、望ましい修復画像を得ることが可能となる。
と、ここまでは良くある話だが、以上を踏まえて僕が妄想してる画像修復の方法をちょっとだけ紹介してみる。
磁性体の仲間には、スピンがバラバラな常磁性、スピンが揃う強磁性、スピンが反対向きになる反強磁性がある。また、面白いものとして、スピンが螺旋状になるカイラル磁性がある。これは、通常の強磁性に、隣り合うスピン間を垂直にさせようとするジャロシンスキー・守谷相互作用が加わった結果起こるユニークな磁気構造である。
このカイラル磁性のハミルトニアンを事前分布に採用すれば、元の画像に”周期性”の構造を取り入れることができる(ただし、カイラル磁性はスピンが連続的に変化するので、上記の2値画像の手法からは逸脱してしまうが)。
周期性構造をうまく抽出する方法には複素ニューラルネットワークなどもあるが、新しい手法としてカイラル磁性モデルを事前分布にしたベイズ推定も使えるのではないだろうか??